これはガムシという水生甲虫である。昨年の9月初め、クワガタ捕りに行って、外灯に飛んできていた2頭を拾った。体長は35mmくらい。「〈ガムシ〉という名前が嫌だ」と家族に言われた。たしかに〈蛾〉を連想させるので、〈蛾〉が苦手な者にとっては嫌な名前なのかもしれない。下の写真を見てもらうと、胸部から長い牙のような突起が出ているのがおわかりになると思う。これが牙のように見えることから、〈牙虫〉となり、それを重箱読みにしたのが、名前の由来ではないかといわれているそうだ。採集した時にはこの突起で刺され、手が痛かった。しかし、飼っているうちに馴れてきたのか(?)、刺さなくなった。
ガラス水槽にたっぷりと水を入れ、底に砂利を敷き、ホームセンターで買ってきた水草をたくさん挿しておいた。実は水草を主食とする、温厚な虫なのである。チンゲン菜や小松菜も食べたが、水が腐りやすいので、あまり与えなかった。水草をバリバリと食べ、金魚のフンを短く、緑色にしたようなフンをしていた。水の汚れを防ぐため、投げ込み式のろ過装置をエアーポンプにつないで使用。水換えは月に1~2度行っていた。
胸部から腹部にかけて銀色に光っているのは空気の泡である。これを吸って酸素を取り込み、なくなると水面へ浮き上がってきて、再び空気の泡を体にくっつけて潜水する。酸素ボンベをつけているようなものだ。尻に泡をくっつけるゲンゴロウとは違う。泳ぎも潜水艦みたいにかっこよく泳ぐゲンゴロウと比べるとかなり下手で、バタバタと足を交互に動かして必死に泳ぐ(少なくとも、はたから見ていると、必死に見える)。そして浮き上がってしまわないように、水草や砂利にしがみついていることが多い。
実はゲンゴロウとは近縁ではなく、外見が似ているのは〈他人の空似〉らしい。もちろん、甲虫類なので、ゴキブリとも近縁ではない。

観察していると、陸から水へ住処を移し、進化している途中の虫、という気がする。
甲羅干しをよくする、と他のサイトで見たことがあったため、陸地を作ることにした。考えた末に購入したのが子ガメ用の浮島だった。これは気に入ったらしく、2頭ともよく上陸していた。このように近づいて写真を撮っても、まったく逃げようとせず、意外と神経が太いようだった。 どことなく、クロカナブンに似ているような……。あと、顔つきがジュゴンやマナティーといった、海草を食べる海牛類と似ている気がする。同じ水草を食べる動物だからかもしれない。飼育を始めてからは、夜間に部屋の電気を点けておいても、飛ぶことはなかった。
昆虫マニアの間では、比較的簡単に捕れるせいか、あまり人気がない虫のようである。また、虫に興味がない人たちにはゴキブリに似た外見から嫌われる傾向があるようだ。しかし、開発が進んだ都市近郊ではなかなか姿を見かけないし、ゴキブリ似という点では、コオロギやスズムシの方がよほど似ているように思える。
泳ぎ方がかわいいせいか、日が経つにつれて我が家では人気者になったが、1頭は去年の秋の終わりに、もう1頭は今年の1月まで生きて死亡した。寿命だと思う。残念ながら2頭ともオスで、繁殖をさせることはできなかった。ただ、カブトムシやクワガタは複数のオスを同じケースに入れておくと、必ず喧嘩をして、互いに命をすり減らすこともあるし、メスを攻撃するDVオスもいるのだが、ガムシの場合、喧嘩はまったく見られなかった。
美麗にして頑丈な鎧を身に纏い、短い一生を闘争と交尾に明け暮れるカブトムシやクワガタの生き方は、確かに非常に魅力的である。だが、誰にも迷惑をかけないガムシの静かな生き方も、これはこれでいいじゃんか、と思えてくる。
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